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よく食べるのに痩せてきました(猫の甲状腺機能亢進症)

ご自宅の高齢の猫が、ご飯を良く食べるのに痩せてきている。最近怒りっぽくなった。毛艶が悪く、下痢や嘔吐もある。といった症状が見られたときは、甲状腺機能亢進症かもしれません。

人では、甲状腺機能亢進症という名前より、バセドウ病という名前の方が一般的かもしれません。バセドウ病は1840年にこの病気を発表したドイツ人医師カール・フォン・バセドウにちなんで名づけられました。一方、猫でこの病気が報告されたのは1979年と意外と最近のことです。現在では猫のホルモン疾患では最も多く認められるものとされています。

1、原因

バセドウ病は自らが自分自身の甲状腺を攻撃してしまうため、その刺激により甲状腺ホルモンが沢山分泌され、甲状腺の腫大、眼球突出、頻脈といった症状が現れます。猫では、甲状腺過形成、甲状腺腫、甲状腺癌などにより甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで生じますが、その多くは過形成によるものです。しかし、人も猫もその発症の原因ははっきりとは分かっていません。

2、症状

典型的な症状は,食欲の増加,体重減少,活動性の亢進,性格が荒くなると言ったものですが、食欲不振、多飲多尿、下痢、嘔吐、元気消失、呼吸促迫など様々な症状を呈することもあるため、高齢の猫では、健康診断の項目に甲状腺ホルモンを加えることが良いと思います。

3、診断

臨床症状とともに、血液検査で甲状腺ホルモン(血清総サイロキシン)を測定し、過剰に分泌されていることを確認することで信頼性高く診断することができます。結果がグレーゾーン(やや高いが異常高値ではない)場合には、症状を確認しながら、期間を開けて再検査を実施します。

4、治療

日本では、内科療法と外科療法があり、猫の年齢や健康状態、その他の併発疾患の有無などにより選択しますが、当院では内科療法による治療を一般的に行います。外科療法は、内科療法の効果が低い、継続することに問題があるといった場合に検討します。

内科療法は、抗甲状腺薬(メチマゾール)の投薬により行います。治療はゆっくりと行い、定期的な血液検査により投与量を決定していきます。投薬が難しい猫には、ヨードという物質を制限した処方食のみを与えることで病気のコントロールができる場合もあります。

本症の治療を開始すると、隠れていた腎不全(後述)が現れてくることがあるので、腎臓の検査も並行して実施する必要があります。

5、併発疾患

甲状腺機能亢進症では、本症に伴う高血圧などが原因で次のような様々な併発疾患を発症します。

(1)心肥大
高血圧の持続により心臓が肥大し、甲状腺中毒性心筋症を発症し、呼吸困難や突然死等の原因になります。

(2)腎不全
持続的な全身性の高血圧は腎臓への負担を増すため、腎機能の低下(慢性腎不全)を引き起こします。しかし、高い血圧により、腎臓の血流量が増加しているため、腎臓はダメージを受けながらも見かけ上腎機能の低下を示さないことがあります。この場合、甲状腺機能亢進症の治療をすることで、腎不全が目に見える形で現れることになります。

(3)全身性高血圧症
持続的な高血圧により最もダメージを受けるのは毛細血管を多くもつ臓器です。目の網膜出血や網膜剥離が認められたり、脳神経症状を起こすことがあります。

6、予後

このように、甲状腺機能亢進症は治療を行わないと様々な併発疾患等により、寿命を縮めてしまいます。適切な治療が開始されると、その他の併発疾患の状況によりますが、比較的長期の予後が期待できますので、早期発見、早期治療が大切と考えます。

参考文献

松木 直章、犬と猫の内分泌疾患ハンドブック
竹内 和義、猫の甲状腺機能亢進症の治療、伴侶動物治療指針Vol.2
Carney,H.C., Ward, C., Bailey, S. J., et al. (2016) : 2016 AAFP guidelines for the management of feline hyperthyroidism. J Feline Med Sure. 18: 400-416
Richard W. Nelson, C. Guillermo Couto. Small Animal Internal Medicine 3e.

posted date: 2019/Nov/26 /
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