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進行性脊髄軟化症(progressive myelomalacia: PMM)

1、はじめに

我が家のポポロもミニチュアダックスフンドの血を半分持っているのですが、ミニチュアダックスを飼っておられる飼主さまは、椎間板ヘルニアがミニチュアダックスには多いことをご存知の方が多いですので、今回のタイトルの病気も聞いたことがあるかもしれません。進行性脊髄軟化症(以後PMM)は発症すると有効な治療法はなく、ほぼ全ての患者が亡くなってしまいます。私も経験する度に、獣医師として無力感を感じる非常に辛い疾患です。

2、原因

PMMは、重度で急性の脊髄障害が原因で生じた脊髄の壊死(虚血性や出血性による)が、急激に頭および尾方向へ広がることが原因と考えられています。ですので、急性発症の椎間板ヘルニアが多く認められるミニチュアダックスフンドに代表される軟骨異栄養犬種では、急性の重度椎間板ヘルニアが原因でPMMとなってしまうケースが認められます。もちろん、脊髄の腫瘍や交通事故などによる脊椎の骨折などから生じることもあります。相川動物医療センター相川先生の研究では、重度の椎間板ヘルニアを発症した患者のうち、特にフレンチブルドッグでPMMの発症率が高いと報告されています。
軟骨異栄養性犬種には他にもフレンチブルドッグ、ウェルシュコーギー、ビーグル、シーズー、コッカースパニエル、ペキニーズなどが知られています。

3、症状

PMM発症直後は、後肢の麻痺など病変部位に応じた神経症状が認められ、この時点では椎間板ヘルニア等による症状との区別は困難な場合が多いです。神経症状の範囲が日に日に広がる様子が見られ(早い場合には数時間のうちに広がります)、発熱や強い痛みを訴えることもあります。最終的には延髄の呼吸中枢が壊死し努力呼吸をするなどの呼吸様式の変化から呼吸停止に至ります。多くのPMMになってしまった動物は2〜4日で呼吸停止に至ります。途中でPMMの進行が止まったケースも経験はありますがごく稀なケースであり、逆に椎間板ヘルニアの発症から1日にも満たない短時間のうちに急激に症状が進行し亡くなってしまったケースも経験しています。
診断は、このような特徴的な病状の進行により行いますが、MRIなどの画像診断などで疑うこともあります。確定診断には手術により広範囲に脊髄が壊死していることを確認することや病理検査が必要です。

4、治療

PMMに有効とされる治療法は現状ありません。発症後に治療し回復したと報告される症例は、そもそもPMMではなかったと考えることが妥当との意見もあります。PMMと診断され、激痛が続く場合には、非常に辛い選択ですが、安楽死も選択肢となる場合があります。急激に生じた重度の椎間板ヘルニアではなかなか予防法はありませんが、比較的軽度の椎間板ヘルニアでは、状態をよく観察し、少しでも進行が認められた場合には重症化(グレード5)する前に手術をすることがPMMの予防につながると思われます。

5、最後に

まだまだ獣医療では助けられない病気は少なからずあります。PMMもそのような病気の一つですが、やがて助けられる日が来ればと思うばかりです。PMMの原因として最も多いハンセンⅠ型と言われる椎間板ヘルニアは、一般的に軟骨異栄養犬種で生じます。つまり遺伝的な側面が大きい病気です。一時のミニチュアダックスフンド人気の時代には、椎間板ヘルニアをよく診察しましたが、このところは人気犬種の変化で明らかに診察機会は減りました。
我が家のポポロもミニチュアダックスの血が半分入っているので、この私が言うのは乱暴な意見ですが、重い椎間板ヘルニアから二次的に生じるPMMの予防には、これら軟骨異栄養犬種を飼わないことが有効な治療法のない現状、最も有効な手段なのでしょう。病状の進行をただ目の当たりにするだけで何も治療できないという辛い経験をしてしまうと、そんな乱暴な意見も頭をよぎってしまいます。

これからワンちゃんを飼おうと考えておられる将来の飼い主さま、是非、飼われる前にそれぞれのワンちゃんに多い病気というのを事前に勉強され、早めの対応ができる準備や、そのリスクを背負いきれそうもない場合には、他の犬種を考えるなど、十分な準備をしてご自宅に迎えていただきたいと思います。

参考文献等

  1. 相川動物医療センター HP
  2. Aikawa T, Shibata M, Asano M, Hara Y, Tagawa M, and Orima H. A comparison of thoracolumbar intervertebral disc extrusion in French Bulldogs and Dachshunds and association with congenital vertebral anomalies. Vet Surg. 2014 Mar;43(3):301-7.
posted date: 2020/May/05 /
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