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犬の膵炎

1. はじめに

皆さんのお家のワンちゃんも、下痢や嘔吐で病院に行かれた時に、「膵炎」と診断されたことがあるかもしれません。
この膵炎は、軽度なものから重度なもの、急性のもの慢性のものと様々ですが、特に重度の急性膵炎では、亡くなってしまうことも少なくない怖い病気です。

2. 症状

食欲不振、下痢、嘔吐、元気がなくなるといった症状が多く、半数以上で腹痛もみられると言われています。強い腹痛が生じると、お祈りのポーズ(下絵参照)と言われる姿勢を取ることもあると言われています。しかし、その様な典型的なポーズを飼い主様がみる例はあまりないという印象を持っています。また膵臓から小腸につながる管と胆嚢から小腸につながる管が近いこともあり、この管の流れが悪くなり黄疸がみられることもあります。

3. 原因

人ではアルコールや胆石が要因となることが知られていますが、犬の場合は不明なところが多いです。表にあげたものが原因となる可能性があると言われています。

食事
脂肪分の多い食事
無分別な食事
カルシウム製剤
L-アスパラギナーゼ
臭化カリウム
アザチオプリン
有機リン剤
犬種
ミニチュア・シュナウザー
ヨークシャー・テリア
テリア種
内分泌疾患
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
糖尿病
甲状腺機能低下症
その他
高トリグリセリド血症(高脂血症)
肥満
高カルシウム血症
炎症性腸疾患

犬種ではトイ・プードルも比較的多い印象があります。

4. 診断

上記症状の他に、血液検査や超音波検査を総合して行います。
重症化すると、炎症が全身に及び、多臓器不全やショックなどの合併症も引き起こし、回復が非常に困難になるため、膵臓だけでなく全身の状態を診なければなりません。退院の見込みなど、予後の予測には、継続した血液検査を実施することが役に立ちます。

5. 治療

少しでも早く治療を開始することが、重症化を防ぐ可能性があると考えられています。治療の基本は輸液・鎮痛・吐き気止め等の処置を行い、膵臓の安静化を図ります。合併症が見られた場合には、個々の合併症にあわせた治療を行います。膵炎の治療では、膵炎そのものに対する治療薬はなく、支持療法が中心的な治療となります。
膵炎に対する治療薬がないと書きましたが、昨年、膵臓の炎症を抑える薬が上市されました。本薬については、その治療や副作用に関しての臨床的な報告を論文等で十分に確認することが出来ず、現状、当院では本薬の積極的な使用については慎重な態度をとっています。今後も治療報告等の集積に務めて、有効な治療方法について検討を進めたいと思っています。
 
 

参考文献

Toru SATO, Koichi OHNO, Takashi TAMAMOTO, Mariko OISHI, Hideyuki KANEMOTO, Kenjiro FUKUSHIMA, Yuko GOTO-KOSHINO, Masashi TAKAHASHI and Hajime TSUJIMOTO. Assessment of severity and changes in C-reactive protein concentration and various biomarkers in dogs with pancreatitis. 2017. J. Vet. Med. Sci.79(1): 35–40.

Yuki, M., Hirano, T., Nagata, N., Kitano, S., Imataka, K., Tawada, R., Shimada, R. and Ogawa, M. 2016. Clinical Utility of Diagnostic Laboratory Tests in Dogs with Acute Pancreatitis: A Retrospective Investigation in a Primary Care Hospital. J. Vet. Intern. Med. 30: 116–122.

Ishioka, K., Hayakawa, N., Nakamura, K. and Terashima, K. 2011. Patient-side assay of lipase activity correlating with pancreatic lipase immunoreactivity in the dog. J. Vet. Med. Sci. 73: 1481–1483.

posted date: 2019/Jan/24 /
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