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犬と猫の血液型

 少し前のトピックになりますが、「ネコ用人工血液の開発に成功」との記事が話題となりました。中央大学理工学部 小松晃之教授率いる研究チームが、国際宇宙ステーションISSの日本実験棟「きぼう」 で遺伝子組み換えネコ血清アルブミンの構造解析を実施したことから、中央大学と宇宙航空研究開発機構JAXAの連名で発表されました。今回は、犬と猫の血液型についてお話ししようと思います。

1、犬の血液型

犬の血液型はDEA式という分類を行います。DEAとはDog Erythrocyte Antigensつまり犬の赤血球の表面ある蛋白のことで、全部で8種類(もっと多いという説もあります)が知られています。これら8種類の蛋白が赤血球の表面に有る(+)、無し(-)の組み合わせで血液型を決めていますので、人間のようにA、B、O、ABのように単純には決まりません。

2、犬への輸血

犬への輸血時の血液型は、上記のすべての組み合わせが同じ犬を見つけることは容易ではありません。実際には、輸血の際に最も重要と考えられているのは、DEA1.1の血液型で、DEA1.1(-)の犬にDEA1.1(+)の犬の血液を輸血すると激しい副作用(輸血反応)を起こしてしまいます。ですので、病院で犬の血液型を調べる際は、DEA1.1が陽性か陰性かを調べています。そして、さらに交差適合試験(クロスマッチ試験)と呼ばれる、犬の血液同士を混ぜて、凝集がおこるか否かを確認して輸血を行うことになります。

ただし、犬は生まれた時には、他の血液型に対する抗体を持っておらず、初めての輸血では、たとえDEA1.1(-)の犬にDEA1.1(+)の犬の血液を輸血しても、輸血反応は起こらないと言われています。とはいえ、上記検査を行って輸血を行うことが安全上大切です。

赤血球表面にDEA1.1の蛋白を持たない、DEA1.1(-)の犬は、理論上、他の犬に輸血をしても輸血反応を起こさないため、ユニバーサルドナーと呼ばれます。このような犬には、輸血が必要な際のドナーになっていただけると有難く思います。

3、猫の血液型

猫にはA、B、AB型の3種類があり、O型はありません。ただし、人間の血液型とは異なり、AB型はA型とB型の親から生まれる訳ではなく、全く別の遺伝子です。平均するとA型が最も多く80%程度、B型は20%程度、AB型は稀となっていますが、ブリティッシュショートへアやエキゾチックショートヘアはB型がこの割合よりやや多い傾向にあると言われています。

4、猫への輸血

特にB型では、他の血液型に対して強い輸血反応を生じますが、他の血液型であっても、必ず血液型の同じ血液で、さらに交差適合試験で適合性を確認してから輸血する必要があります。しかし、猫のAB型は非常に珍しいため、他のAB型の猫を見つけることが難しいですので、最善ではありませんが、A型の血液を輸血に用いることもあります。

5、最後に

動物医療の現場では、輸血用血液確保の問題を慢性的に抱えています。特に我々のような一次動物診療施設ではなおさらのことです。しかし、輸血が必要な緊急疾患というのは、まず最寄りの一次動物診療施設にやってきます。そこから、輸血がすぐ可能な大きな施設に転院となると、治療が後手後手に回ってしまい兼ねません。冒頭で紹介したような人工血液が早く実用化になり、容易かつ低コストで利用可能となるようになってもらいたいものです。

 

参考文献

K. Yokomaku, M. Akiyama, Y. Morita, K. Kihira, T. Komatsu:Core-shell protein clusters comprising haemoglobin and recombinant feline serum albumin as an artificial O2 carrier for cats.J. Mater. Chem. B 2018, 6, 2417-2425.

posted date: 2018/Jun/20 /
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